中里太郎右衛門陶房・御茶盌窯記念館
十四代 中里太郎右衛門
唐津藩の御用窯を代々務めた唐津焼の名門。展示場のほか、人間国宝・中里無庵の旧宅を使った記念館で、桃山時代の古唐津、藩の御用窯の作品、歴代当主の代表作を見られます。
窯元マップ・作陶体験

KARATSU WARE
「一井戸二楽三唐津」――茶人が名だたる茶碗の三番手に数えた、土の温もりを味わう焼き物
唐津焼は、佐賀県唐津市とその周辺でつくられる陶器です。ざっくりとした粗めの土を使う「土もの」で、手に取ると素朴で力強い印象を受けます。桃山時代の茶人たちに愛され、茶碗の格付けとして「一井戸二楽三唐津(いちいど・にらく・さんからつ)」と並び称されました。いまは茶道具だけでなく、ご飯茶碗や皿、酒器といった毎日の器が多くつくられ、唐津市内だけでもおよそ70の窯元が点在しています。
はじまりは1580年代ごろとみられています。唐津市南部の岸岳(きしだけ)の山すそを治めていた豪族・波多(はた)氏のもとで窯が開かれ、いまも「岸岳古窯」と呼ばれる窯跡が残っています。かつては豊臣秀吉の朝鮮出兵(文禄・慶長の役、1592〜1598年)で連れて来られた朝鮮の陶工が始めたと言われてきましたが、発掘調査から、それより少し前に生産が始まっていたことが分かってきました。とはいえ、出兵の後に朝鮮半島の技術を持つ陶工が数多く加わったことで窯の数は一気に増え、坂の斜面に部屋を連ねた「登り窯」や、足で回す蹴ろくろ、土を叩き締めて形をつくる「叩き」といった技法が根付きました。
唐津の港から船で各地へ運ばれた器は、京都や大坂をはじめ西日本一帯に広まり、西日本では焼き物そのものを「からつもの」と呼ぶほどになりました。江戸時代に入ると、燃料の薪を切りすぎて山が荒れたことなどから窯場は整理されますが、唐津藩は献上品をつくる「御用窯」を置いて技を守りました。この御用窯を代々務めたのが中里家で、将軍家などに納めた器は「献上唐津」と呼ばれています。
明治維新で藩の後ろ盾を失い、有田焼などの磁器が広まると、唐津焼は一時ひどく衰えました。これを立て直したのが、のちに人間国宝となる十二代中里太郎右衛門(中里無庵、1895〜1985年)です。無庵は古い窯跡を調べ歩き、途絶えていた叩き技法など桃山〜江戸初期の「古唐津」のつくり方をよみがえらせました。この復興をきっかけに作り手が増え、伝統を受け継ぐ窯から現代的な感覚を取り入れる若い作家まで、さまざまな唐津焼が生まれています。
唐津焼には「作り手八分、使い手二分」という言葉があります。器は作り手が八割まで仕上げ、残りの二割は使う人が日々使い込むことで完成する、という意味です。土や釉薬(うわぐすり)、絵付けの違いによって見た目が大きく変わるのも特徴で、絵唐津・朝鮮唐津・斑唐津など種類の多さは他の産地にない魅力です。
Styles
絵唐津(えがらつ)
鉄分を多く含む「鬼板(おにいた)」という絵の具で、草花や鳥などを筆でさらりと描き、その上から釉薬をかけて焼いたもの。日本の陶器で早くから絵付けをした例とされ、唐津焼と聞いて多くの人が思い浮かべる代表的なスタイルです。のびやかな筆づかいが見どころ。
朝鮮唐津(ちょうせんがらつ)
黒く発色する鉄釉と、白っぽく濁る藁灰(わらばい)釉の2種類を掛け分け、高温で焼いて二つの釉が溶け合う様子を楽しむもの。上から流した白い釉が黒地に垂れ、境目が青みを帯びたり景色のように混ざり合ったりします。花入や水指、徳利によく見られます。
斑唐津(まだらがらつ)
藁灰を混ぜた白く濁る釉薬をかけたもの。焼くと土の鉄分や燃料の松の灰が溶け出し、乳白色の肌に青や黒の細かな斑点が浮かびます。岸岳の古窯で焼かれた歴史の古い種類で、ぐい呑や茶碗で人気があります。口の縁に鉄釉をぐるりと塗ったものは「皮鯨(かわくじら)」と呼ばれます。
黒唐津(くろがらつ)
鉄分を多く含む釉薬で焼いたもの。鉄の量や焼き加減によって、飴色、こげ茶、深い黒まで色合いが変わりますが、まとめて黒唐津と呼びます。落ち着いた色なので料理が映え、普段使いの器にも向きます。
粉引(こひき)
茶色い素地が生乾きのうちに白い化粧土をかけ、さらに釉薬をかけて焼いたもの。粉を吹いたようなやわらかな白さが特徴です。朝鮮半島で古くから使われた技法で、唐津では近代になって取り入れられました。使ううちに水分や油がしみて表情が変わりやすい器です。
三島唐津(みしまがらつ)
朝鮮半島の「三島手」の技法を受け継いだもの。生乾きの器に判子で模様を押したり線を彫ったりし、そこへ白い化粧土を埋め込んでから釉薬をかけて焼きます。細かな連続模様が白く浮かび上がる、端正で華やかな見た目です。唐津では江戸時代に始まりました。
奥高麗(おくごうらい)
朝鮮半島の高麗茶碗の形を手本にした、絵や模様のない無地の茶碗。土の色と釉薬だけで勝負する素朴な姿が、侘び茶を好んだ茶人に高く評価されました。古唐津の茶碗の中でも特に格が高いものとされます。
青唐津(あおがらつ)
木の灰を使った釉薬が、焼き方によって青みを帯びて発色したもの。透明感のある青緑色が涼しげで、岸岳の古窯の作例がよく知られています。
刷毛目・彫唐津(はけめ・ほりがらつ)
刷毛目は白い化粧土を刷毛でさっと塗り、その勢いのある筆跡を模様として見せるもの。彫唐津は白く化粧した器が乾く前に線を彫り込んで模様をつけるもので、作例が少なく珍しい種類です。
二彩唐津(にさいがらつ)
茶色の鉄釉と緑色の銅釉の2色で、松や草花などを大胆に描いたもの。17世紀後半から武雄周辺で多くつくられ、大皿や鉢に見られます。
Kiln map
体験できる窯元窯元街なかの展示販売
28件の窯元
十四代 中里太郎右衛門
唐津藩の御用窯を代々務めた唐津焼の名門。展示場のほか、人間国宝・中里無庵の旧宅を使った記念館で、桃山時代の古唐津、藩の御用窯の作品、歴代当主の代表作を見られます。
中里隆・中里太亀・中里健太
中里無庵の五男・中里隆が1974年に開いた窯で、親子孫の三代が作陶。見借の里山の谷あいにあり、唐津駅前のギャラリーなどでも人気の高い窯です。
井上東也・井上公之
1969年に井上東也が鏡山のふもとに開いた窯。土づくりから薪窯での焼成まで手仕事を続け、茶陶から普段使いの器まで直営ギャラリーで販売しています。
熊本千治・熊本象
1976年開窯。従来の唐津焼に独自の工夫を加え、暮らしに寄り添う器をつくる父子の窯。箸置きなどの小物から求めやすく、猫をモチーフにした器も人気です。
三藤るい
鏡山の南、宇木の窯元。斑唐津や黒唐津の酒器・花入・茶碗のほか、青磁の香炉なども手がけています。
川上清美
鏡山の南東、唐津市半田にある川上清美の陶房。
五代 中野陶痴・三代 中野霓林
明治期に町田で開かれた窯を受け継ぐ老舗。茶陶や細工物を手がけ、干支の置物や香合も有名です。江戸後期に築かれたとされる割竹式の登り窯が残ります。
唐津で初の女性陶芸家が開いたとされる窯のギャラリー。紅葉や木の葉など季節の草花を写した普段使いの器や茶陶が並び、1階には無料の古唐津ミニ資料館があります。
大橋裕(代表)
1971年創業、家族4人で営む窯。工房は北波多にあり、唐津駅近くの呉服町の店舗で土もののぬくもりある器を販売しています。
小杉隆治
和多田駅近くの窯元。展示場の1階が陶房になっていて、作り手の仕事場の近くで器を選べます。
西川一馬
唐津城の登り口に展示販売場を構える窯元(工房は見借)。お城見物のついでに立ち寄れる立地です。
厚綿久美
唐津港に近い東大島町の小さな窯元。
村山健太郎
浜玉町横田下の窯元。工房が展示場に隣接しています。
土屋由起子
唐津出身の土屋由起子が隆太窯での修業を経て開いた窯。工房が展示場に隣接し、バリアフリーにも対応しています。
五代 眞清水蔵六
浜玉町東山田の山あいの窯元で、陶房が展示場に隣接しています。
岡晋吾・岡さつき
浜玉町の窯元。公式サイトによると、展示場は個展準備などのため当面休館中で、再開は公式サイトで告知予定です。
大塚望東生
唐津くんちの曳山「鯛」を思わせる赤い鯛を描いた茶碗やぐい呑が名物。「めでたい」に通じる縁起物として、お祝いの贈り物やお食い初めの器に人気です。
岸田匡啓
浜玉町の山間部、鳥巣地区にある岸田匡啓の窯元。
冨永祐司
唐津焼発祥の地とされる岸岳のふもと、北波多岸山の窯元。工房が展示場に隣接し、年中無休で作陶体験も受け付けています。
水谷渉
唐津の土を使い薪窯で焼く窯元。唐津の粘土・原土の製造販売も行う、土にこだわる工房です。
田中孝太
相知町牟田部の窯元。
竹花正弘
登り窯で作陶する厳木の窯元。自宅兼ギャラリーで作品を見られます。
福田和祐
土と焼きにこだわった器をつくる厳木の窯元。
岡本作礼
作礼山のふもと、厳木町平之の窯元。陶房が展示場に隣接しています。
矢野直人
名護屋城跡のある鎮西町名護屋の窯元。各地の画廊でも個展を開く作家の工房です。
藤ノ木土平
鎮西町野元の窯元。陶房が展示場に隣接し、定休日なしで営業しています。
中川恭平
唐津の土など厳選した素材を使い、土づくりから窯焚きまで手作業で行う玄海町の窯。ギャラリーでは中川恭平の作品と、中川自然坊の遺作を展示販売しています。
大原和司
先代・吉野魁が始めた窯で、唐津焼の窯元として紹介されています(所在地は伊万里市)。週末は併設のカフェ「Cafe Reed」も営業。
Galleries
唐津焼協同組合に加入する窯元の作品をまとめて展示・販売。唐津駅のすぐ隣で、旅の最初に多くの作家の器を見比べるのに便利です。製造工程のパネル展示や企画展のほか、素焼きの器に絵を描く有料の絵付け体験もできます(団体は要予約)。
十四代中里太郎右衛門、中里隆、中里太亀、中里花子など人気作家の唐津焼を扱う老舗。2階のギャラリーでは作家の個展などの企画展も開かれます。唐津駅から徒歩約5分の商店街沿い。
唐津駅近くの複合施設KARAE内にあるやきものギャラリー。若手から国際的に活躍する作家まで、複数の窯元の作品を販売しています。由起子窯の黒唐津タイルを使った内装も見どころ。
唐津駅前の通りにある器と雑貨の店。伝統的な唐津焼の器に加え、店主が選んだ小物や置物が並び、気軽な掘り出し物探しが楽しめます。
伝統的な木組みで建てた木造の店で、和菓子とお茶をいただける喫茶と、唐津焼や各地の工芸品を扱う展示スペースを併設。松浦川を渡った東唐津にあります。
築約120年の旧商家「旧井出邸」を活かした器のギャラリー。唐津焼・有田焼の作家作品を常設展示し、陶展も開催。中心部からは車で約20分の北波多にあり、岸岳方面の窯元巡りと組み合わせやすい立地です。
唐津焼と暮らす
使って育てる(貫入・経年変化)
唐津焼の多くは、焼いたあとに冷める過程で釉薬の表面に細かなひび模様「貫入(かんにゅう)」が入ります。割れではなく模様の一種で、使ううちにお茶や料理の色がうっすらしみ込み、少しずつ色合いや艶が変わっていきます。これを「育つ」と呼び、自分だけの器に変わっていく過程を楽しむのが唐津焼の醍醐味です。まずは毎日手に取るご飯茶碗や湯呑、晩酌のぐい呑から使い始めると変化が分かりやすいでしょう。
買い方のコツ
唐津焼は同じ作家・同じ形でも一点ごとに表情が違います。気になった器は実際に手に取って、重さや口当たり、手へのなじみを確かめましょう。窯元のギャラリーでは作家本人から話を聞けることもあり、街なかの展示販売場ではいろいろな窯の作品を見比べられます。初めてなら豆皿やぐい呑など小ぶりで手頃なものから選ぶのがおすすめ。春の「唐津やきもん祭り」や秋の「窯元ツーリズム」の時期は、作家と直接話せる機会が増えます。窯元は少人数で営んでいる所が多いので、訪ねる前に電話で営業日を確認すると安心です。
お手入れ
土ものの器は水分を吸いやすいため、使い始めに米のとぎ汁で煮る「目止め」をしておくと、しみや匂い移りを防ぎやすくなります(作家によって勧め方が異なるので、購入時に聞くのが確実です)。使う前にさっと水にくぐらせると、料理の油や色がしみにくくなります。洗ったあとは布巾で拭き、底までよく乾かしてからしまいましょう。湿ったまま重ねるとカビや匂いの原因になります。急な温度変化に弱いものもあるため、電子レンジや食洗機、直火は避けるのが無難です。欠けてしまっても、漆で直す「金継ぎ」で再び使い続けることができます。
Events
例年4月29日〜5月5日(ゴールデンウィーク)
唐津やきもん祭り
唐津駅周辺の中心市街地を会場に開かれる唐津焼の祭典。「食と器の縁結び」をテーマに、唐津焼作家による展示販売や毎年のテーマ展、市内の飲食店が唐津焼の器で料理を出すコラボ企画などが行われ、まち歩きをしながら器と食を一緒に楽しめます。2026年は第14回として4月29日〜5月5日に開催されました。主催は唐津観光協会内の実行委員会。
公式サイト例年11月下旬の週末(2025年は11月22日〜24日の3日間)
唐津窯元ツーリズム
ふだんは公開していない窯元が期間限定で門を開き、作業場の見学や作家による説明、作品の展示販売などで来訪者をもてなす催し。2025年の第13回には23の窯元が参加し、街なかのギャラリーでも関連展が開かれました。紅葉の季節に、地図を手に山あいの窯元を巡れる貴重な機会です。日程や参加窯元は毎年秋ごろに告知されます。
公式サイト日程・時刻・料金などは変わることがあります。お出かけ前に公式情報をご確認ください。